上映作品 - コンペティション

霧の中の象たち / Elephants in the fog

ネパール、ドイツ、ブラジル、フランス、ノルウェー / 2026 / 103分
監督:アビナーシュ・ビクラム・シャー(Abinash Bikram SHAH)

野生の象が棲む森に囲まれたネパールの村。「キンナル」と呼ばれる「第三の性」の共同体を率いるピラティは、村の打楽器奏者の男との駆け落ちを密かに夢見る。ある夜、象対策の夜警に出たキンナルの娘が失踪する。警察に相手にされず、自ら捜索の先頭に立つことになったピラティは、自由への渇望と共同体への責任の間で引き裂かれる。

ネパールの辺境を舞台に、伝統的なトランスジェンダー・コミュニティ「キンナル(kinnar)」の絆と葛藤を描いたヒューマンドラマ。彼女たちは伝統儀式では祝福をもたらす存在とされる一方、日常生活では呪いをもたらす者として忌避されてきたのだという。ミン・バハドゥル・バム監督の『黒い雌鶏』(2015年/第16回東京フィルメックスで上映)やベルリンコンペ作『Shambhala』(2024)で共同脚本を手掛けたことでも知られるアビナーシュ・ビクラム・シャーは、初長編監督作となる本作で、彼女たちが抱える等身大の葛藤や感情を、ステレオタイプを排して真摯に紡ぎ出している。地に足のついたリアリズムで血縁を超えた強い結びつきを描きつつ、深い霧やそこに潜む象の群れといった神秘的なモチーフを加えた映像美は圧巻だ。古くからの伝統と現代的な視点を交差させながら、本作は「女性らしさ」の多様な姿や家族という関係性の多面的な輪郭を鮮やかに描き出し、ありのままの自分として豊かに生きるために私たちに何が必要なのかを深く問いかけている。カンヌ映画祭の「ある視点」部門でプレミア上映され、同部門で審査員賞を受賞。米国アカデミー賞国際長編映画賞部門のネパール代表作品。

監督:アビナーシュ・ビクラム・シャー(Abinash Bikram SHAH)

ネパール生まれ。カトマンズを拠点にする映画作家。短編『Lori』(2022)がカンヌ映画祭短編コンペティションでスペシャルメンションを獲得。脚本家として活動する一方、ドイツのベルリナーレ・タレンツ、米国のサンダンス・インスティテュート、韓国のアジア映画アカデミーなど、世界各地の映画人材育成プログラムに参加。監督長編デビュー作である本作は、釜山、サンダンス、ロッテルダム、ヴェネツィア、ベルリンなどの映画祭マーケットで企画段階から注目され、多数の製作助成を受けた。