上映作品 - コンペティション

十月のうた / A Song from Beyond

日本 / 2026 / 80分
監督:杉田協士(SUGITA Kyoshi)
配給:shiso

ある日、写真家の桃子がカフェで昼食を食べていると、大学で映画制作を学ぶ学生から、卒業制作作品への出演を依頼される。撮影当日、彼女の前に現れた父親役の人物は、長い間会っていなかった彼女の本当の父親だった。

過剰な台詞やドラマチックな展開をあえて排し、登場人物たちの静かな呼吸や会話を通して、深い喪失感を抱えた主人公の女性の心象風景を繊細に描き出した一作。日常やそのすぐ外側にあるささやかな風景の中に潜む心の揺らぎを、端正かつ静謐な映像で掬い上げている。杉田協士監督はこれまでの作品と同様に、物語の背景や動機をほとんど説明することなく、登場人物たちの佇まい、そして彼らの視線の交錯や間の取り方によって作品世界を立ち上げていく。多くの言葉を尽くさずとも、登場人物たちが同じ空間を共有することで生まれる豊かな情感は、観る者の記憶の底にある様々な感情を静かに呼び覚ますだろう。過剰な感情表現を削ぎ落としたスタイルだからこそ、ふとした瞬間に示される眼差しや共感が圧倒的な強度をもって響く。洗練されたミニマリズムの中に宿るエモーショナルな力強さが際立ち、そこに滲む優しさが心に深く残る作品だ。

監督:杉田協士(SUGITA Kyoshi)

初長編『ひとつの歌』(2011)、第2作『ひかりの歌』(2017)が東京国際映画祭で上映。第3作『春原さんのうた』(2021)はマルセイユ国際映画祭でグランプリ・最優秀俳優賞・観客賞の三冠を獲得、第22回東京フィルメックスで国内初上映後、マンハイム=ハイデルベルク国際映画祭特別賞、高崎映画祭最優秀監督賞も受賞。前作『彼方のうた』(2023)はヴェネチア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に選出。