© 2025 “Leave the Cat Alone” Film Partners
日本 / 2025 / 102min /
監督:志萱大輔(SHIGAYA Daisuke)
配給:イハフィルムズ
写真家の妻マイコとの距離に悩む音楽家のモリは、かつての友人アサコと偶然に再会する。この再会は、互いの古い感情を呼び覚ますものの、2人の記憶は微妙にすれ違っていく。モリとアサコは長い散歩の果てに、軌道が逸れた2つの人生とそれぞれの現在地を見つめ直すことになる。
芸術家としての情熱を維持するのにも疲れ、新進の写真家として活動する妻のマイコとの関係も停滞気味の音楽家のモリ。彼は漠然とした健康不安から休職し、孤独な日々を送る中で、かつての友人アサコと再会する。物語は、この再会をきっかけとした数日間の出来事を中心に、彼らが過去に抱いた夢や理想と現在の生活の乖離を静かに見つめ直していく。志萱大輔監督の長編デビュー作となる本作では、それぞれが芸術を志す(あるいはかつて志していた)主人公たちが過去の自分と再接続することで、新たな創造のきっかけやエネルギーを取り戻していく軌跡が描かれている。言葉にされない感情や、表層下でくすぶる焦燥感が控えめな筆致の中で繊細に捉えられており、自己探求と芸術的再起動というある意味では使い古された主題に新しい息吹が吹き込まれている。本作は釜山国際映画祭に今年新設されたコンペティション部門でワールドプレミア上映された。
©志村颯
監督:志萱大輔(SHIGAYA Daisuke)
神奈川県生まれの脚本家・映画監督。過去作に『春みたいだ/Spring Like A Lover』(2017年)。 続く、『窓たち/Windows』(2020年)は、ndjc2020 の一環として制作された後、第 26 回釜山国際映画祭の Wide Angle 部門に招待された。そして長編映画デビュー作となる『猫を放つ/Leave the Cat Alone』は第 30 回釜山国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、ワールドプレミアを迎えた。
監督ステートメント
初⻑編作「 猫を放つ 」で描いたのは 記憶 にまつわる物語。
とりわけ 思い出す というありふれた⾏為について。⽬の前に広がる⽇常の中にこそ、映画を作るための⽷⼝や魔法は転がっていると感じている。
この映画は 「 過去を⾒つめることは、翻って、現在を⾒つめることに繋がる⾏為だ 」という私個⼈の実感を元に制作され、劇中の過去の場⾯は実際に七年前の素材を元に構成している。七年前に撮影された断⽚を劇中で「曖昧な過去」として取り扱う構想の元、「現在」部分の脚本執筆をしたことにより「過去から⾒た現在」というもう⼀つの主題が⾃ずと⽣まれた。そして、その視点はアサコとモリという架空の⼈物に向けられるだけにとどまらず、作者である私⾃⾝にも向けられることとなった。 ⾃分の過去から⾒えた⾃分の現在地点。気がつけば今、⽬の前には妻がいて、⾷卓には⾏政からの難しい⼿紙があり、世帯主という欄には⾃分の名前が書かれている。
主⼈公たちは、過去へと⽴ち返った結果、既に過ぎ去ってしまった時間の流れを⽬の当たりにし、今の私という存在は、⾃らの決断の結晶であると認識し始める。
⽢ったるく、くだらない、恥ずかしい思い出をふと思い返した時の浮遊する感覚をモチーフとして、私はこれから先 誰と どこで どのように ⽣きていくべきか。 ⽣きていきたいか。という切実な問いを映画の中に閉じ込めたかった。それは決して⼤きな物語ではないが、私たちの⼈⽣に訪れるささやかな⼀つの場⾯ではないだろうか。