『ヴェルクマイスター・ハーモニー』
ティーチイン

 タル・ベーラは7時間半の大長編『サタンダンゴ』('94)で知る人ぞ知るハンガリーの鬼才だが、新作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』もまた、観客を釘付けにするに十分な濃密度を誇る力作だった。ワンシーン・ワンカットのモノクロ映像で描かれるのは、移動サーカスがやってきた小さな村の人間模様と、やがて引き起こされる凄まじい暴動。上映後に現れたベーラ監督は舞台に上がらず、観客と同じ目線に立っての質疑応答を行った。
 モノクロを採用したことについては、「私には、この世がモノクロに見える。色をつければ物事の本質に迫れるとは思えない」。徹底した長回しの演出については、「ある情報を与えてシーンを切るのは嫌いだ。私にとってストーリーはごく表面的なもので、その奥底の本質を見出すには、ある時間の流れが必要だと思う。その時間の境界線を越えることで、私は自由になれる」と、明快かつ妥協のない映画哲学の一端を披露。劇中の“鯨”は何の象徴か、との質問には「象徴を信じてはいけない」とひとつの解釈に固執しないよう促した。そして「こんな灰色のどうしようもない映画を見に来てくれて嬉しい」と監督流の謝辞を客席に投げ、「我々はなぜ破滅するのか、そのことを感じ取ってくれれば」と締め括った。


監督プロフィール:タル・ベーラ
1955年、ハンガリー生まれ。1981年、ブタペストの映画アカデミーを卒業後、MAFILMに勤務。1979年から1980年まで、ブダペストの若い映画製作者のために設立されたベーラ・バラージュ・スタジオの実行委員会の会員を務める。1990年以降、ベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、また1996年からはヨーロッパのフィルム・アカデミーの会員でもある。『ヴェルクマイスター・ハーモニー』は4年の歳月をかけて製作された。


back