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『スモール・ミラクル』 畢國智(ケネス・ビー)監督 インタビュー |
香港の映画界に身を置いて八年間。俳優、編集、脚本、制作、音楽という形でさまざまな現場に参加しながら、ドラマ、アクション、音楽が作る映画の魔力を勉強し続け、自分の監督作品が作れるまでじっと待っていた青年がいた。彼、ケネス・ビーの名前はフルーツ・チャン監督作品『花火降る夏』(99)の音楽担当で日本初登場、あざやかな音楽処理を覚えている人もいることだろう。プロデューサーである夫人のローサ・リーさんとの来日に、若々しくも慎ましい、好感の持てるこの作品について話を聞いた。「デジタルビデオカメラを買ったのです。やっと自分の作品が撮れると思いました。このカメラでの撮影なら一番の問題である予算をクリアできるからです。私は自分の世界を映画にしたかった。それには誰からも口をはさまれたくなかったのです。当然この作品はここ七年ぐらい私の見てきた香港映画とは別 なものにならざるを得ませんでした。香港映画のルールは観客をとにかく楽しませなければいけないということです。私は観客が共感できる映画を作りたかった。普通 の人が普通に生きている世界を描きたかったのです。ストーリーは長年あたためていたものです。ただ演出は低予算にのっとったものになりました。素人俳優の起用、その演技をカバーする細かいカット割り、少ない照明、ロケセット、出来合いの美術など。しかし、この小さなカメラはそれを見事にプラスの要因に変えてくれたと思っています。」 全員素人の起用ということだが、プロの俳優、サム・リーがひとりキャスティングされているのはという質問に、「サム・リーは私の友達なのです。彼は香港で唯一芝居をしない俳優です。そしていざここというときに実に的確な演技を見せる。本当に貴重な俳優です。残念なことに数日しか体が空いていなくて、彼のスケジュールを優先した役柄になりました。他の人達とは入念なリハーサルをしました。彼らとのディスカッションから演出が決められていくこともありましたし、セリフもそうでした。時には十五回のリハーサルでも言い切れないセリフがあり、カットするということもありました。」初監督の演出にはさまざまな苦労があったに違いないだろうが、出来上がった作品からは微塵もそれがうかがわれない。むしろ初監督の喜びが伝わってくるような軽快な仕上がりになっている。編集、音楽も彼のもので、特に編集のセンスの良さには感心させられた。 「編集は撮影前に頭の中でできていました。時には編集しながら、思い通りの絵が欲しくて、また撮影したこともあります。デジタルカメラの特権です。それでもやっぱりこうして出来上がってみると、不満は数限りなくあります。特にクライマックスのドラッグのシーン。あそこはもっとカラフルな雰囲気で包みたかった。演じてもらった人達は素人だったし、もちろんドラッグ経験がなかったので、なんだか単に気が変になったみたいになってしまって。本当は彼の状態に対して他の人物のカットを挿入し、彼が誰よりも大きく見えるという効果を出したかったのですが、出来上がったものは彼の幻想かそれとも現実か分からないような、ちょっと不思議な効果 があったので結局そのまま残したのです。」 次回作『Hainan Chicken Rice』は来年の中国の正月明けに撮影に入りたいという。やはり普通 の人の普通の話だそうだが、今度はプロの俳優の演技をじっくり見せるものになるという。もちろんローサさんのプロデュースだが、大きな作品になるために共同制作の形でお金を集めるということ。シナリオはすでに釜山映画祭PPPなどで受賞。今後もやはり他の監督の作品に音楽やシナリオなどのスタッフとして参加していきたいという。作品鑑賞だけでは演出について学べることは限られているからというのがその理由だった 監督プロフィール:カナダのブロック大学の演劇・映画学科を卒業後、TVや映画の脚本家、ミュージック・ビデオの監督としてキャリアを積む。99年、ライン・プロデューサーを担当した『Slow Fade』、音楽を担当したフルーツ・チャン監督の『花火降る夏』がベルリン国際映画祭に正式招待された。『スモール・ミラクル』はビーの劇場映画デビューとなる。 |